SUIRYO 翠陵 vol.84
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11SUIRYO 84チコピーにしました。有名なホテルのあるエリアで生き残るには、泊まる理由が絶対に必要ですしね。言い切ることでそのことに責任を持つと言うか、本当に秀でたものにしようと自ずとなっていきました。ツーリズムの新しい流れで、体験型というのがトレンドになっていたことも好都合でした。岸本 「観光地だから泊まるホテルではなくて、泊まりたいから訪れるホテル」というのが、弊社のホテル運営上の考え方でもあるんです。淡路島観光ホテルは、その見本のようですね。上村 女将になった当時、旅館は業界全体が旧態依然として、古い体質を残したままでした。日常的に人件費が嵩み、少し触れば設備投資として何千万と掛かるなかでは、利益率が思わしくないのもそうならざるを得ないのかと。でも、改善の余地はいくらでもありました。ただ、スタッフに改善を依頼しても、それは会社がしてくれて当たり前という雰囲気でした。そこで、「わかりました、私がきっちりとした体制を作りましょう。その代わり、会社の基盤から変えていきましょう。」とスタッフ全員に働きかけました。曖昧なところは残さず、残業があればすべて賃金化しました。また、厨房は聖域で料理長の権力が絶大でしたが、思い切ったことをやる必要があったので、それまでの悪しき慣習などもすべて断ち切りました。また、マルチタスクの考えから、人事異動も行いました。仕事の内容としては特別なスキルは必要なく難しくはないのですが、部署が違うとどうしても垣根がある。こうしてあげたら楽だろうなっていう、互いの部署が動きやすいように自分はどうすべきか、想像力を働かせてもらいました。今は半年に1回人事異動を行っています。どの部署でその人が光るかという適材適所を見極めるためにも必要なことです。お客様の層も本当にさまざまで、季節によっても違ってきますし、淡路島の観光スポットにもご夫婦でいらっしゃるのか、お子様連れなのかという違いもあります。さまざまな提案が必要とされるなかで、それを補うのは幅広い知識や経験になってきます。岸本 私も、新卒で入ってからは、いろんな部署の仕事を経験しました。入社1年目の配属は、希望したブライダル部門ではなかったので戸惑いはありましたが、先ほど上村さんがおっしゃったように広く知識を得て、自分のいる場所をよく知ろうと頭を切り替えました。そこから1年後にブライダル部門に移ったとき、それまでさまざまな記念日で宿泊されるお客様のお手伝いをしていましたので、懇意にしてくださった方から結婚式まで担当させていただくという機会にも恵まれました。一瞬一秒を大事な思い出としてお客様に提供していきたい岸本 ご婚礼のときは、どんなことにでも対応できるよう常に緊張した状態ですが、新郎新婦のお二人が退場されたあと、ふとこぼれる幸せに満ちた笑顔が私のモチベーションになっています。また、一度ご利用いただいたお客様が、再びご来館いただいたときも、感謝の気持ちと同時にこれまでやってきたことに間違いはなかったと確信する瞬間です。常にそうした気持ちを忘れないために現場に立たせていただく日もあります。一瞬一秒を思い出として提供できることの喜びをスタッフにも感じて欲しいですね。出社してまず欠かさないのがスタッフの状況を把握すること。事務所や調理場などバックヤードを見て回ります。汚れたままになっていたら、そうなる精神状態やプライベートで何かあったのかなと考えて、スタッフがお客様に向き合うまでにコミュニケーションをとったりして、策を講じます。スタッフの明るい笑顔や心のこもった対応で館内に満ちた楽しく幸せな空間を、ご来館されたお客様に感じていただきたいと思っています。上村 何事もなく暮れる日はなく毎日いろんなことが起こる中で、一日の始まりの朝、自宅から旅館にたどり着くまでのひとときが心をリセットできる貴重な時間です。旅館近くに構えた自宅は木々の生い茂る山の中にありながら海も見えるので、あふれる緑と青の風景のなかを渡る風に季節の機微を感じたりしています。ときには土の香りだったり、葉っぱの匂いだったり。淡路島の自然に癒されているのを実感しながら、心まで深呼吸しているようですごく気持ちがいいんです。ただし、一歩、旅館に入ると岸本さんと同じですね。瞬時に、責任ある者の目と頭になってスタッフや館内のチェックには余念がありません。家に帰ると、子どものお迎えなどもあり、忙しさに終わりはありません、それこそリアルな現実に向き合う時間となるので、やはり朝のひとときは貴重です。岸本 故郷を離れて長くなるにつれて思うことがあります。関西にいる友人には誇れる故郷ですが、地元の人が泊まりたいと思うホテルが実は沖縄にはないのではと感じていま同窓生対 談NOW!

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