SUIRYO 翠陵 vol.88
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13SUIRYO 88神戸学院大学同窓会会長東大寺「大仏さまのお身拭い」Big Buddha'sBody Wipes東洋証券株式会社 代表取締役社長 桑原 理哲令和5年8月7日、午前6時、二月堂の湯屋で身を清め、白装束に藁草履で大仏殿に足早に向かう。今日は大仏さまのお身体に付着した塵埃(じんあい)を布で拭き清める年に1度の法要「お身拭い」の日。東大寺は奈良時代に創建され、「奈良の大仏さま」のお寺として、現代に至るまで広い信仰を集め、日本文化に多大な影響を与えてきた寺院です。大仏さまの正式名称は「廬舎那仏坐像(るしゃなぶつざぞう)」、華厳宗教主として宇宙をあまねく照らす仏さま。いにしえより人々の心の支えであり、その大きく優しいお姿に接すると、全てを包み込んでくれるような安心感に満たされます。さて午前7時、大仏殿に入堂。コロナ禍で一時中止となってしまった「お身拭い」ですが、実は昨年から3年ぶりに再開され、私は昨年に続き今回が3度目の参加となりました。先ずは大仏さまの魂を抜く撥遣(はっけん)作法が行われ、般若心経を唱えた後に、二月堂の湯屋で身を清めた白装束に藁草履姿の僧侶や関係者150人が、それぞれの配役場所で「お身拭い」を開始します。「お身拭い」は大仏殿のいたるところで行われ、配役場所はあらかじめ指定されます、今年の私は大仏さまの壇上の「大仏蓮弁」を清める配役となりました。大仏さまを傷つけないよう、はたきを使って埃を落としていくのですが、初参加の時は、はたきとはいえ、大仏さまを叩いてよいのか躊躇したものですが、「撥遣作法」により大仏さまの魂を抜いた状態なので心配無用とのことでした。大仏さまは高さ15m、顔幅3.2m、手のひら2.5m、以前に一度手のひらに登った時は、下を見下ろすのが怖いほどの高さでした。清掃は全ての配役場所で同時開始となり、大仏さまの髪の毛螺髪(らほつ)から埃が延々と粉雪のように舞い降りる中、下の方では、その埃を浴びながら清掃を続けることに。あまり合理的な作業手順ではありませんが、「埃を被るとご利益がある」といわれ、全く苦にならない不思議な充実感を感じるお勤めなのです。はたき掛けが終わると、次は白雪ふきん(浄布)で、大仏さまを磨く作業の浄拭(じょうしょく)に入ります。今年の夏は猛暑、午前7時でも気温は上昇していますが、なぜか白装束で包まれた体からは汗が出てきません。実はこれにはわけがあり、大仏さまの体は銅で鋳造されており、その関係で気温がやや低いのです。年に一度の清掃といえば、年末の行事ですが、東大寺大仏殿に限っていえば、12月だと(銅の大仏の関係で)室温が低くなり過ぎてしまうので、8月に行うのではないかと思う…これは私の個人的見解であり、正しくは、大仏さまにきれいな姿でお盆を迎えてもらうことがこの時期にお身拭いをする理由だそうです。午前9時30分、炎天下の「お身拭い」作業は終わり、終了後に行われる「開眼作法」により大仏さまの魂が元に戻され、大仏さまの新しい一年が始まります。清められた大仏さまの清々しい姿を見上げ、心が清められる中、大仏さまがつくられたきっかけとなった疫病鎮めの故事に思いを馳せ、新型コロナ沈静化と神戸学院大学の発展と同窓会の更なる成長をお祈りした次第です。(了)赤いはたきを手に大仏さまの埃を落とします(執筆者本人)▶

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