神戸学院大学を受験し、複数の学部から合格通知を手にした田村崇さん。入学先として選んだのが人文学部でした。本来は理数系であったものの、これまでになかった視点を持てるかもしれないという期待と、人文という未知なる魅力と可能性に心惹かれてのことでした。そして、神戸学院大学卒業後は、株式会社神戸珈琲に入社。その後は、一日でも早く一人前になりたいと、仕事を覚える一心で毎日を過ごすなか、社会もコーヒーを取り巻く状況も気が付けば大きく変わっていったといいます。一心不乱に仕事を覚える日々コーヒー豆を焙煎する作業は、コーヒーの製造販売をする自社にとっては最重要の仕事です。当然のごとく焙煎作業に従事することには大変大きな責任が伴うことになります。ただひたすらに焙煎作業を行い、元は理数系を得意としていた自分が、感覚や感性を研ぎ澄ましての日々を積み重ねるうちに、今では焙煎中の豆の音を聴き分けるまでになりました。ガス火よりも低い温度の炭火で、マイルドに仕上げるのが炭火焼きの特徴であり、炎を上げるようなことがないように、火加減には細かく気を配ります。炭火焼きは、苦いというイメージを持たれている方もいらっしゃるようですが、決してそういうことはありません。今では、長い経験によって育んできたものを、次代に伝えるべく後輩の指導にも目を配る日々です。ただ、私の時代は仕事はハードでしたが、ありがたいことに、何万回も焼かしてもらってきたことへの感謝もあり、自分の中では、忙しかったからこそ身についたものもたくさんあったはず、との思いもあります。コーヒー豆も農産物なので出来も毎年違い、産地によっての違いもあり、原料や産地を知っては学ぶの繰り返しでしたが、産地へ行く機会もここ数年のコロナ禍ではなくなり、人材育成において07SUIRYO 88世界へとつながる一杯のコーヒーに、未来を託しては今まで通りにはいかなくなった難しさも感じています。激変するコーヒーを取り巻く環境時代とともに、コーヒーを楽しむシーンが変わってきています。喫茶店の数も私の学生時代からは激減し、今は外資系のチェーン店や郊外型のカフェが主流になり、今やコーヒーは、コンビニやファストフードでも手軽に飲まれるものになっています。国内の状況から世界に視点を移しても、そこにはすでにさまざまな変化があります。将来に向けても大きな変化を伴うことが避けきれない問題まであります。2050年、気候変動によりアラビカ種のコーヒー栽培適地が現在の50%にまで減少する、と警鐘を鳴らす「2050年問題」です。貿易での取引の関係も変わってきています。コーヒーの生産国から大消費国へと転じたブラジルや、経済成長とともに生活スタイルも変わり、コーヒーという嗜好品への関心が高まってきた中国など、消費者のニーズも知識と共に広がっていきます。その供給先を次第に国内産から世界へと求めていくことになるでしょう。このことは、量と質の両面での問題を孕んでいるといえます。「量」では、コーヒーの高相場状況や現在の円安が続けばますます日本へは入りにくくなるはずです。コーヒーの取り合いです。日本でコーヒーは高級品になりつつあります。「質」においても二極化が進んでいます。多くの生産国においては高品質化を求め、バラエティに富んだプロセスへの取り組みが急増しています。フェアトレード認証コーヒーも昨年初めて品評会が開催されるなど品質が上がっています。一方で近年の気候変動により生産が難しくなる地域も少なくありません。品質低下、他の作物への転作なども見受けられます。気候変動・コロナ禍・紛争と問題が山積する中では肥料や輸送費、人件費なども大き同窓生NOW!株式会社神戸珈琲1998年人文学部卒業田村 崇さんたむらたかし神戸学院大学卒業後、株式会社神戸珈琲に入社。コーヒーの焙煎・製造、品質管理、商品開発、コーヒー豆の仕入れ・管理などを担う。国際フェアトレード認証の担当者になって以来、認証コーヒーの販売に伴う各種手続きや普及活動などで、仕事の領域はさらに拡大。
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