SUIRYO 翠陵 vol.89
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12SUIRYO 89たどり着いた先の味は、茶葉の品質はもちろん、緻密に計算された湯の温度、量、入れ方に基づいており、そのどれもが試行錯誤を繰り返した結果ですが、40年以上やってもまだまだわからないところに、茶葉の世界の楽しさがあります。ティーハウスムジカの堀江さんとは自分がそれなりの人物にならないと会うのは失礼と思い、10年間会っていませんでした。自分から話ができるまで、と頑張ってきました。「お会いするのに10年かかりました」と言ったら笑ってくださったのもこの頃のことです。お気に入りの居場所を見つけて来店してくださるお客さんが「行くところがないと困る」と思い、大晦日元日とも店を開けています。長年お店をしていますと、いろいろなお客さんがいつも絶えず来てくださいます。60歳代のお客さんから「憶えてらっしゃいますか?」と話しかけられたことがありました。顔は全く覚えていませんでしたが、声でわかりました。昔、アルバイトとして手伝ってくれていた神戸学院大学の卒業生がお客さんとして帰ってきてくれたのです。常連のお客さんだけでなく、最近は母校の学生さん、先生、新規のお客さんも多く来店されます。また、「神戸学院大学の卒業生です」と同窓生の方も来られる機会が増えました。誰にでも苦労はあります。だけど、それを人に見せる必要はないと思います。逆に人に羨ましいと言わせないと、とも思います。いいお客さんばかりでストレスが溜まりません。私は好きなことをやっているので苦労はありません。それでも、朝から12時間ずっと立ちっぱなしなので体力的には疲れます。でも娘からは「何言ってるの!遊んでるくせに」と言われ、それで終わりです。孫からも「いいね、遊んでて」ですから。子茶葉を運んだ快速帆船の名を店名に紅茶専門店 ARIEL(アリエル)Tea specialty store ARIELも孫も、私が楽しく遊んでいるように見えるから、それは仕事じゃないよ、ということなのでしょう。母校の懐に抱かれて、時に気遣い45年朝はよく日課のようにして、有瀬キャンパス付近を歩いています。毎回、自分の研究室のあったあたりを見て帰ってきます。まだまだいろんな発見もあります。自分が在学していた頃より、大学としてずっとよく見えることにも気づきました。「なぜここにお店を?」と聞かれます。母校の学生たち、いわば私の後輩たちに、紅茶のいろいろ、また人生のいろいろを教えてあげたいと思ったからです。彼らが卒業後、全国に飛び立っていくその時のために。妻も息子も法学部で、娘は人文学部という家族全員が神戸学院大学の同窓生です。たくさんの先生方と親しくなり、ゼミでもお店を使ってもらおうと考えましたが、今その通りになり、よくゼミ単位での予約をいただいています。店には何時間でもいてもらっていい方針なので、使っていただきやすいと思います。ここで始めたことが何より良かったと思います。守ってくれる大きな存在として、母校をいつもそばで感じていられる。卒業してから、いつもいつまでも味わえる贅沢な余韻です。1866年、中国からイギリスまで、いかに速く一番茶を届けるかを競った「ティークリッパー(快速帆船)」によるレースで、アリエル号がわずかの差で2番船となった予想外の理由を知り店名に。<店舗情報>神戸市西区伊川谷町有瀬1746営業時間/AM11:00~PM7:00 定休日/不定休駐車場/3台有りTEL/(078)974-5967 http://ariel.starfree.jp/Facebook「紅茶専門店ARIEL」で検索※お越しになる前に確認のご連絡をいただければ幸いです(店主渡邊より)

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